次の日、明清華が宗仁を見つけたのは、昼近くだった。場所は、昨夜宗仁を見つけた食堂だ。
「めいひぇ」
 口一杯に饅頭を頬張ったまま、宗仁は目を丸くした。
 明清華は宗仁の座っていた卓に着いた。その間中、宗仁の目は明清華の頭を追っていた。
「この髪では、紹介してもらえぬか?」
 はにかむように明清華が尋ねる。
 宗仁は口の中の饅頭をお茶で飲み込んだ。
「そういう、肝っ玉の小さいことは言わねえよ。だが、随分、ばっさりと切ったなあ」
 驚きのあまり、宗仁の話し言葉が昨日と比べて荒っぽくなっている。だが、明清華はその方が
気楽に感じた。
 宗仁が驚くのも無理はなかった。明清華は腰まであった長い髪を、首がすっきり見える程まで
短く切っていたからだ。元々片めだった髪を香油で固め、武神のように立たせている。奇抜とも
いえるその髪型は、すっきりと通った明清華の顔だちを際立たせ、見る者を振り返らせていた。
「ちょっとな。適当に切ったら、短くなり過ぎてしまった。似合わぬか?」
 不安そうにする明清華。人が余りにも振り返るので、気にしない振りをしながらも、短すぎで
はないかと、気にしていたのだ。宗仁は、その、明清華の不安を鼻先で笑った。
「良く似合っているよ。似合い過ぎて、どこかの若様かと思ったくらいだ。だがなぁ」
「だが?」
「これじゃあ、明姐ではなく、明兄としか呼べないな」
「それはなかろう。この私も、昨日の私も、明清華だ」
 実は、明清華は自分が彼へ名乗りをあげていなかったことに、下宿へ帰ってから気付いた。だ
が、今の、余りにも女である自分を彼に名乗りたくはなかった。
 そして、気が付いたら、彼女は自分の髪を縛った根元からばっさりと切っていた。
「違いない」
 呟いて、宗仁はさもおかしげに喉の奥で笑った。明清華は小さく安堵の吐息を吐く。
 明清華が昼食を注文し終えても、宗仁は笑い続ける。明清華は軽く彼を小突いた。

 一週間後、明清華は宗仁が紹介してくれた旅の一座に加わって、住み慣れた曲埠を後にした。
 旅の一座が盗賊に殺されて、明清華が曲埠に戻ったのは、その2年後。再び、曲埠で踊り始め
た明清華が、陳偉・陽任に出会ったのは、更にその1年後の話だった。

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